「よし、準備完了。白火、これ大丈夫そう?」
「大丈夫です。ちゃんと〝捧げもの〟の状態になってますよ」
神使である彼には、供物の状態がわかるらしい。
今から行うのは【縮小版・清めの儀式】だ。
本来の儀式とは方法も効果も規模も異なり、こちらはあくまで〝捧げもの〟分しか清められない。
だから、縮小版。簡単に説明すれば、切り取った髪に含まれた霊力だけで対象を清める儀式だ。たとえばこういう狭い空間や、小さな物を浄化する際に用いられる。
対象の穢れが多かったり、清めなければならないものが広範囲である場合はまた別だ。本式でなければ、とても浄化が間に合わないから。
ただそうなると、真宵が自ら霊力を放たなければならないため、術者としての負担は比べものにもならないほど重くなる。
昔、一度だけ霊力を操るトレーニング中にやってみたことがあるが、元より霊力量の豊富な真宵でも相当きつかった。
とはいえ確実な結果を見込むなら、やはり理想は本式だろう。
けれど真宵は今、とある事情から、あまり多くの霊力を消費出来ない状態にある。
霊力消費が膨大な本式を行うと、下手したら命を落としかねないらしい。
それでも一度無理やりやろうとしたら、白火にこの世の終わりかと思うほど号泣された。
白火の泣き虫は今に始まったことではないけれど、その時ばかりは我を忘れるほど泣いて、あやうく天照御殿が火の海になるところだった。
暴発する狐火の処理の方がよっぽど肝を冷やしたので、さすがに諦めた。
神々を統べる最高神の御殿には、それこそ高天原を揺るがすほどの重要書類が大量に保管されている。火事なんか起こせば、それこそ死罪では済まない事態だ。
そのため、まあ仕方なく縮小版で済ませている、というわけで。