「旦那として相応しい、というのは全て結婚後のおまえ次第だろう。──だが、ふたりには互いへ向けた想いがある。その点では、この世界の誰よりも契りが成功する確率は高くなると思うぞ」

「本当だろうな?」

「嘘ついてどうする。そのへんの全く面識のない神々に比べたら、よっぽどおまえの方がマシだと言っているだけだ」

 マシ。

 他に言い方はないのか、こいつ。

 冴霧は歯噛みしながら真宵を見る。

 真宵は戸惑ったように冴霧を見上げていた。

「……どうする、真宵。俺と契りを交わすか?」

「で、でも……さぎりさまは……私で、いいんですか?」

「今さらだな。俺はおまえ以外に懸想なんてしたこともないし、これまでもこれからも真宵だけを愛し抜くと誓ってる。真宵以外には、有り得ねえよ」

 真宵はゆっくりと目をぱちぱちさせた。

 そんなに驚くことだろうか。いや、しかし。

(言われてみりゃ、ちゃんと言ったことなかったか?)

 何もかも隠し続けてきたがゆえに、この想いもはっきりと伝えたことはなかったかもしれない。

 どうにも気が急いて、結婚しよう、とただ求婚ばかりしていたから。


「……なあ、真宵。俺を選んでくれ。絶対に幸せにするから」

「っ……私、も……私も、冴霧様を幸せにしたいです」

 一方通行は嫌だ、と潤んだ瞳がこの期に及んで訴えかけてくる。

 ここまで来てもその気持ちは譲らないらしい。

 まったく、強情というか頑固というか。

(まあでも、そんなところが真宵らしい)

 冴霧はふっと目元を緩め、慈しむように真宵の頬に親指の腹を滑らせた。

「わかってる。俺を幸せに出来んのは世界でたった一人、おまえだけだからな」

「そ、その言葉……ぜったい、忘れないでくださいね」

 強かな嫁だな、と冴霧はこんなときなのに笑ってしまいそうになる。

「契りを交わすぞ」

「はい……!」

 魂の契りに最も重要な双方の同意。

 ようやく肯定してもらえたことに、こんな状況ながら心が華やいだ。

 ああ、ひどく険しく長い道のりだった。


「翡翠。立ち会いを頼む」