翡翠は難しい顔で、冴霧の向かい側に腰を下ろした。
衣服が汚れるのも構わず地面に膝をつき、おもむろに真宵の額に触れる。
赤羅と蒼爾も、いつの間にか背後で心配そうに様子を窺っていた。
「元より真宵嬢には縁がない。それは前に話したな? つまり、契りを交わす際は、そこに無理やり縁を繋ぎ合わせることになるんだ。となれば先立って『相性』の問題が出てくる。魂同士が反発し合えば【魂の契り】は成功しないからな」
人と神の間で行われる魂の契りは、言わずもがな特殊な契りだ。
縁を辿り、それを引き合わせ、根本から結び付ける。
共有する。
決して切れない糸を作る。
そうすることで、魂の一部が相手に繋がるようになる。
これが力なき人の子の場合は、神側に利点はひとつもない。
しかし、真宵は違う。
【清めの巫女】の力はそうすることで絶え間なく、契った神に溜まる穢れを無意識化で祓い続けることが出来るのだ。
(……もとより神との契りは、人側への影響が甚大だ)
要約すれば──【人神】となるのである。
寿命が延びるのはもちろんのこと、人でありながら神としての資格を手に入れるので、高天原の住民として正式に認められることになるだろう。
なにより強い加護がつくため下界に降りることも出来るようになるし、魂が剥がれる心配もなくなるため曖昧だった真宵の存在も確立されるはずだ。
だがそれは全て成功すれば、の話で。
「……翡翠、おまえから見て俺は……こいつの旦那として相応しいと思うか?」
情けなくも、尋ねる声が心なしか震えてしまった。
翡翠はそんな冴霧を推し量るように一瞥すると、「さてな」と片眉をあげた。