──シャラン。

 鈴の音に弾かれるように、パッと視界が晴れた。

 刹那、冴霧は目の前で舞う真宵に目を奪われる。

 ゆっくりと、ゆっくりと、段々動きを緩めていく。

 舞の終盤。

 真宵は回りながら冴霧を見て、優しく微笑んだ。

 冴霧は力の入らない足を叱咤して、何とか立ち上がり駆けた。

 視界に入る髪は、しばらく見ていなかった白銀。

 穢れが全て祓われたのだと悟ると同時、舞を終えてそのまま前方に倒れ込んだ真宵をどうにか腕の中に抱きとめる。

「真宵っ……!」

 小さな体からは、もう魂を結びつけるほどの神力は感じられなかった。

 それどころか、いつもは溢れんばかりに感じる霊力もほぼ底を尽き欠けている。

 そりゃそうだ。これほど大掛かりな【清めの儀式】を行えば、必要となる霊力量は計り知れない。

 本式は死んでもさせるなと天利が口酸っぱく言っていたのは、こういうことなのだ。

 真宵にとっては命と、死と隣り合わせの行為になるから。

「おい……っ、しっかりしろ」

 全身の関節が外れたかと思うほどぐったりと脱力した真宵は、薄らと瞼を上げて冴霧を見た。

 黒曜石に似た、けれど夜空と喩える方が相応しい瞳が一点に留まる。

 そうしてふんわりと、いつかのように朗らかに微笑んで。

「……やっぱり、この髪が一番……あなたらしくて、綺麗です」

 真宵は頬にかかる冴霧の髪に擦り寄る。

 あれだけ漆黒に染まっていた髪は、編み込んでいた毛先まで全て元の白銀へと戻っていた。

 つまり、冴霧の中に溜まっていた『穢れ』は全て祓われたことになる。

 しかしそれほどの膨大な力を、ただでさえもう後がない状態で使うなんて、文字通り命を捨てるようなものだ。もはや自殺行為に近い。

「……俺を置いて逝く気か、真宵」

「ふふ……」

「なにがおかしい」