そしてこの笑顔だけは、たとえ何に代えても守らなければならないと思った。
恋なんてものではとても片づけられない想いは、やがて生きる意味となり、いつしか真宵を守る事こそが冴霧の存在意義となった。
(でも、俺は……思い違いをしていたんだな、真宵)
真宵を守るために、己を隠した。
真宵を傷つけないために、距離を取った。
それが仇になっていたなど思いもしなかった。
真宵は全てを知ってしまった。冴霧の罪も、この世界の非道さも。
だがその上で、なおも冴霧を救おうとしてくれている。
受け入れ、向き合おうとしてくれている。
正直、どうしたらいいのか分からない。
これまで良かれと、正しい道なのだと信じて疑わなかったものが、全て一瞬にして断罪されてしまったのだ。
けれど、今になってようやく、真宵の気持ちが分かったような気がした。
真宵は今、自らの命も顧みず、冴霧を救うために尽力してくれている。
おかげで冴霧は神堕ちを免れた。
しかしそれは、真宵という犠牲の元で成り立っている。
やっていることは冴霧とそう変わらない。自分が犠牲になることで相手が助かるのならば、喜んで身を差し出そうと。そんな身勝手な想いからの行動だ。
そんなもの、相手は望んでいないというのに。
そうして手に入れた命の先に、一縷の幸せなどあるわけもないのに。
(──バカだよな。俺も、おまえも)
もっとはやく互いに本当の気持ちを打ち明けていれば……逃げずに向き合っていれば、こんなことにはならなかったのだろう。
すれ違うことも、拗れることも。
繋がらない想いにもどかしく胸を焦がせることだってきっとなかった。
冴霧も、真宵も、ただただ、どうしようもないほど不器用だったのだ。
ああ本当に、今さら後悔するなんて。