なんとなく『本気なんだな?』と問われているような気がして、真宵はただこくりと頷いてみせた。
再び冴霧と向き合うと、一歩、足を踏み出す。
「冴霧様……──聞いてください」
そうして真宵は緩慢な動きで舞い始める。
願いを、想いを込めて口ずさむのは、ひふみ祝詞だ。
『ひふみ よいむなや こともちろらね』
──冴霧様、知っていますか。
──私、本当はずっと、不安だったんです。
『しきる ゆゐつわぬ そをたはくめか』
──本当の家族も、本当の名前も分からない。
──どうして人と神は違うのと。
──どうして私は人の子なのと。
──笑顔の裏側で、ずっとそんなことを考えてきました。
『うおえ にさりへて』
──でも、今は人で良かったって心の底から思います。
人でなければ、きっと冴霧に恋することはなかっただろう。
人でなければ、きっと冴霧を助ける術も持っていなかっただろう。
幾度となく自分が人の子であることを憎んだけれど、人であったがゆえに得られたものも、人であったがゆえに気づけたこともあった。
同じものを見て、同じものを感じて。
それが理想であったとしても、やはり手と手を取り合って生きてゆくのは容易いことではない。
互いに求めるものも、互いに守りたいものも異なるのだから、そこに齟齬が生じるのは当然なのだ。
……だけど。
(やっと、思い出しました。あなたが幼い私を死の淵から救い上げてくれた時のこと)
両親の顔は覚えていないのに不思議なこともあるものだ。
朧気ながら、確かに真宵の中には初めて冴霧が抱き上げてくれた時の顔と感覚が残っている。
あれからこの十九年、何度も何度も冴霧には抱き上げられたけれど、成程。
それは安心するはずだ。
あの温もりは、真宵にしかと染みついているのだから。
──ねえ、冴霧様。もう手遅れです。
『のますあせゑほれけ』
──だって私は、冴霧様しか愛せない運命の元にいるんだから。