真宵と冴霧を包む膨大な霊力の陣は、一種の結界と化している。
支配権は当然の如く真宵にあり、こうなれば大妖や大神でも安易には近づけないはずだ。
(かか様はきっと全部お見通しだったんだろうな。私にこれほどの力があることも、いずれはこんな日が来てしまうことも……私と冴霧様が辿る運命すらも)
今の真宵からは、外部からは手がつけられないほどの霊力が溢れ出している。
そしてその霊力は、皮肉なことに真宵自身の身体を支える最後の砦にもなっていた。
霊力の排出を止めた瞬間、おそらく真宵は反動で動けなくなるだろう。
そうわかっているからこそ、ここでやめるわけにはいかない。
どちらにしろこれは賭けだ。もしもまだ冴霧が話し合える状態だったならば、こうして強行手段に出ることもなかったのだろうけれど。
「聞いてんのか、お嬢っ!」
「ふふ、聞いてるよセッちゃん。でも、大丈夫」
そもそも鬼たちにあのお願いをしたのは、全てこの『儀式』を行うためだ。
儀式に用いる道具は全て特別製だ。
鋏ひとつとってもただの鋏ではない。
一見普通の鋏に見えるが、これは真宵の体から『霊力』をそのまま切り取る神器なのだ。
この鈴輪も、巫女服も、同じように儀式には欠かせない。
さすがにここまで切羽詰まった状況に持ち込まれるとは思っていなかったものの、結果的には同じこと。
ようするに真宵は、これから冴霧を浄化する。
「何が大丈夫なんですか、お嬢!?」
「きっと助けるから安心してってことだよ、蒼ちゃん」
微笑みながら、赤羅と蒼爾の後ろに視線を移す。
そこにはいつの間にやってきたのか、翡翠が立っていた。
その顔からは不思議なほど表情が読み取れない。
鋼のような銀の瞳はじっと真宵を見つめてくる。