「な、にを……!」

「冴霧様。私はあなたが好きです」

 もう大部分『黒蝕』に意識を呑まれているだろう冴霧が、真宵の言葉に反応してわずかに目を見開いた。

 届いていることを信じて、真宵は次いで紡ぐ。

「この世界の誰よりも愛しています」

 腰の長さまで髪が短くなった真宵を前に、冴霧が大きく狼狽えたように見えた。

「──……だから、今ここで、あなたの心にこの想いを届けてみせます」

 そう宣言して、真宵は掴んでいた髪へ息を吹きかけた。

 すると髪は吹きかけられた場所から光となって弾け、真宵の周囲を囲いだす。

 それは瞬く間に冴霧の神力を飲み込んで、辺り一面にさざ波のように広がった。

 同時に真宵の霊力を含んだ光に包みこまれた冴霧。

 ぐっと苦しそうな呻き声を上げたかと思うと、がくりと崩折れその場に膝をつく。

 刹那、冴霧の体から溢れ出した邪気。

 それは光に触れると、相殺されるようにぷつぷつと弾けてみるみるうちに浄化されていく。

 一帯だけ、まるで蛍が溢れるように淡く優しい光の粒が空間を浮き上がらせる中、真宵はきゅっと眉根を寄せた。

(……まだ、足りない)

 冴霧の髪は、邪気が溶けだしていくのと比例して、確かに漆黒が剥がれ落ちつつあるけれど──真宵の髪だけでは、とても補える量ではないのだろう。

 肌に感じる邪気の圧倒的な総量に、真宵はいよいよ覚悟を決めた。

 懐から鈴輪を取り出して、両手首へ嵌める。

 シャン、と清廉さを纏い軽やかに鳴る鈴の音。

 霊力が呼応するようにさらなる瞬きを帯びた。

「っ、お嬢! その辺でやめときっ!」

「そうです、それ以上やればあなたの体が……──!」

 背後から聞こえてきた鬼たちの声に、真宵は首だけ静かに振り返る。

 二人とも、真宵と冴霧を囲む霊力の陣の中には入ってこられないようだった。

 否──入ってこないでという真宵の強い意思がそうさせているのだろう。