(でも、神様だって完璧じゃない。私はそれを、よく知っている)


 時には、山峰のように欲望を抱いて道を踏み外す神もいる。

 時には、翡翠のように人の子へ熱い想いを募らせることもある。

 愛したいと思う気持ちは神だって抱くのだ。

 ならば、愛してほしいと願うことだってきっと罪にはならない。

「……私は冴霧様の本当の気持ちが知りたいんです」

 だってそれこそが、真宵の願いだから。

「傷つかないなんて言いません。だって現に今もすごく痛い。体も心も痛みだらけです。冴霧様が突き飛ばしたから余計に痛い」

「っ……」

「冴霧様も知ってるでしょう。好きな人からされる拒絶が一番痛いんだって」

 何度も何度も、数え切れないくらいに真宵は冴霧の求婚を断ってきた。

 本当に冴霧が真宵を想っていてくれたのなら、その拒絶は計り知れないほどの痛みを冴霧にもたらしたに違いない。

 けれどそれは真宵だって同じだ。

 なにも明かしてくれない冴霧の拒絶が、どうしようもなく痛かった。

 こんなのがずっと続くなんて耐えられないと、そう思ったからこそ結婚を断ってきたのだ。

 どっちもどっち、というやつなのかもしれないけれど。

「──それでも私ね、あなたを諦めたくないなって思うんです」

 真宵は自分の髪を掴んだ。

 少しずつ儀式に捧げていたら、歪な形になってしまった髪。

 儀式に使う髪は、真宵のものとして繋がっている時間が長ければ長いほど、霊力を溜め込んでいく。

 まだ手のつけられていない背中側──既に切り取られて短くなった部分に合わせるように、真宵はひと息に鋏を滑らせた。

 シャキンと刃が擦れる子気味良い音が響き、掴みきれなかった髪が数本、はらはらと朽ち果てた地面に落ちる。