(本当にあなたって人は……)

 まったくもって不器用な神様だと、真宵は思う。

 仕方のない人だ。

 だからこそ一方的は嫌だと言ったのに、その真意にすら冴霧は辿り着けなかった。

 概念そのものからすれ違っていたことに、どうして気づけなかったのか。

 いや、確かに彼を見誤ったのは真宵だが、天下の大神である彼がまさかここまで拗らせているとは誰も思うまい。


「──冴霧様」


 ふたたび名を呼ぶ。

 口に馴染んだ、この世で最も好きな名前。

 懐から神具の鋏を取り出しながら、真宵は霊力を用いて神力の壁をこじ開けていく。

「あなたはきっと、私のことを弱い生き物だって思ってるんですよね」

 一歩、また一歩と近づきながら、真宵は冴霧を見つめた。

「傷つけるもの全てから守り抜かなければ死んでしまう、つついただけでも簡単に壊れてしまうものだと思ってるんでしょ?」

「く、るな……っ」

「でも、それは大きな間違いです。だって私はあの天照大神の娘だもの」

 確かに真宵はただの人の子だ。

 神に比べれば、肉体も精神も脆弱。

 そこは否定出来ないしするつもりもない。

 けれど、真宵にとっては人も神も同じ生きとし生けるモノであった。

 人が持たぬ力を宿す神だって生きている。

 頭脳があり、心があり、肉体がある。

 体に傷がつけば血が出るし、相応の痛みだって感じるのだ。

 それのどこが、人と異なるというのだろう。

「かか様が昔、言っていました。神様は元を辿れば人の想いから生まれたものなんだって。胸を焦がすほどの強い想いが願いとなって、神様を生み出したんだって」

 だからこそ、神は人に酷似している。

 あえて人と同じ姿を取り、人と同じ心を持ち、人々の願いに寄り添いながらその存在を保たたせている──本質だけなら、この世でもっとも優しい生き物だ。