「冴霧様はいつもいつもいつも、そうやって全て自分だけで決めてしまうから! あなたのそういうところが嫌だと、何度言ったら分かるんですか!」
「な、にを」
「どうして私が受け入れないと思ったんですか。どうして私が拒絶すると思ったんですか。どうして信じてくれないんですか。ねえ、どうして……っ」
僅かばかり残っていた冴霧の白銀の髪は、現在進行形で黒蝕が進み、完全に侵食され始めている。
山峰を無に還していたら、もう既に堕ちていた頃だろう。
けれどあれだけの神力を無駄にしてしまった今、もはやそれは時間の問題だ。
「……私は、いつだって手が届かない冴霧様が嫌いだった。大事なことはいつも隠すから。子どもだと思われてるんだろうなって、私の恋は実らないんだろうなって、ずっと苦しかった。だから本当は、冴霧様が許嫁になった時、心の底から嬉しくて──」
でも、同時に悟った。
冴霧は結婚してもなお、変わらないのだろうなと。
隣には立たせてくれない。
この男はいつも手が届かないほど先を行く。
真宵の周りには破れぬ硬く高い壁を敷き詰めて、決して必要以上は近づけさせない。
(その理由が私を守るためなんて……そんなの、ずるいじゃないですか)
冴霧は真宵を抱いたまま地面に降り立った。
夜陰に紛れて吹き荒ぶ風が冴霧の髪を拾い上げるが、嫌味なことにその白皙の美貌は変わらない。
動くのさえ億劫で、立つことすら精一杯な体。
それでもどうにか末端から力を振り絞り、真宵は地面を踏みしめると両腕を広げて冴霧を抱きすくめる。
「……もう、良いんです。なにも隠さないで良いですから」
「お、まえ……まさか」
「はい、全部聞きました。冴霧様が抱えていたもの全て」
その瞬間、冴霧がばっと真宵を突き放した。
踏みとどまる力など入らない真宵は、いとも簡単にごろごろと地面を転がる。
慌てたように降り立った鬼たちが、真宵に駆け寄ってきて抱き起こしてくれた。