馬鹿だ。

 本当に、馬鹿なことをする。

 真宵は心の底から冴霧の身勝手さを呪った。

 大きく尾を靡かせながら、龍が飛んでいる。

 いつか見た龍はあんなにも美しい白龍だったのに、今は歪な斑だ。

 黒龍。

 そんな深闇に染まった冴霧など、真宵の知っている冴霧ではない。

 だがそこにいるのは間違いなく彼だと、真宵は悲しくもわかっていた。

「……待って!!」

 咄嗟に体が動く。

「っ、お嬢!」

「お嬢──!」

 掠れた声で叫ぶと同時に、赤羅の腕の中から飛び降りていた真宵。

 赤羅と蒼爾が焦ったような声を上げたが、荒れ狂う空気にかき消された。

 真宵の絶叫にも近い悲鳴に、今にも神力を放とうとしていた冴霧が大きく身をもたげて頭上を見上げる。

 真っ逆さまに落ちていく最中、ばちり、と目が合った気がした。

 その瞬間、冴霧が大きくうねった。

 驚いたのか、それとも焦ったのか。

 神力が解き放たれる。

 しかし対象の山峰には当たらなかった。

 既に冴霧の意識は、頭上から降ってくる真宵にしか向いていなかった。

 真宵はホッと安堵して、同時に息を詰める。


(あ、待って、待って、これ死ぬ! し、死ぬ死ぬ死ぬ……っ!)


 暴発した神力が対象を失って周囲に霧散していく。

 その最中、自らの体で縛り上げていた意識のない山峰を放り投げ、冴霧は一瞬にして人の姿に戻った。


「──真宵っ!」


 強く地面を蹴りあげ、いっそ悲痛とも取れる声を上げながら──けれど冴霧は空中でしっかりと真宵を受け止めてくれた。

 ……が、同時。


(また……っ)