そう言い残すや否や、冴霧は地面を蹴って飛び立った。
ゴウッと辺り一帯を巻き込むほどの豪風が駆け巡り、眩い光が一面を覆い尽くす。
溢れんばかりの神力が乾いた地面を打ち周囲を波打つ中、光を遮るように腕で視界を遮りながら、翡翠が苦笑したのが分かった。
ぼつり、形の良い唇が動く。
「──相変わらず、演出が派手だな」
クォォォォン──。
白銀と深淵が入り混じる鱗を纏い、千里の道を抜けるような高く透き通った声で鳴く龍。
細く長い尾を美しく靡かせながら、一息に空の上へと舞い上がる。
これが冴霧の本当の姿だ。
本来ならば全身白銀に覆われている白龍のはずが、今はもう半ば黒龍と化してしまっているが、正真正銘の『龍神』。
空から眺めれば、いくら逃げ足が早い山峰とはいえ、ひと目で居場所が分かる。
龍の姿のまま冴霧は目を眇めて、低く「無駄なことを」と呟いた。
奴に向かって下る。
そのまま絡めとるように巻き付くと、山峰は甲高い叫び声を上げて気絶した。
なんとまあ呆気ない。
まだ消してもいないのに。
「──……おまえは罪を犯した。この世で誰よりも手を出してはならないやつに手を出した。その罪は重い。重罪だ。厳罰に値する。よって、山峰。ここに天神会最高幹部、冴霧の名を持って……──おまえを処刑する」
全身を巡る神力をかき集める。
絶対量が擦り減ったなけなしの神力だが、そこは腐っても大神だ。
たとえこの状況でも山峰などの小神に比べれば何倍もの質量がある。
(せめてその身の穢れも罪も闇に葬り無に還れ。安らかに眠れよ、山峰)
残り全ての神力を放出するように、心の中で弔いの言葉をかけてから山峰に向かって手を伸ばし狙いを定めた。
そのときだった。
「……待って!!」
思いがけず空──否、冴霧の頭上から甲高く響いたその声。
凄まじく仰天した冴霧は大きく身を震わせ……──あろうことか、誤放した。
放った神力は的を失い、本来の軌道から大きく逸れて霧散する。
しまった、まずいと後悔する暇もない。
なんせ目の前には空から降ってくる愛し子の姿。
冴霧は今世紀最大級の焦りを感じながら身を翻し、喉が擦り切れんばかりに声を張り上げた。
「──真宵っ!」