「ヒッ……!」

「動機は天照大神への恨み……報復、といったところか。聞くに、ずっと商談を断られ続けていたそうじゃないか?」

 今思えば、天利は山峰の性質を見抜いていたのだろう。

 基本的に天利は害がないと判断した相手には寛容であったし、民間の商人相手にも最高神らしからぬ気を利かせてやっていた。

 一見善良そうな山峰を見破るとは、なかなかの手練れだ。

「お、オラはなにも、なにもしてねえっ! やったのは全てあいつだに!」

 冴霧の視線から逃げるように、山峰は転がったまま後ずさる。

「なにもしてない、ねえ」

 この期に及んでそんな言い訳をするとは──。

(……甘ぇんだよ)

 確かに山峰は、なにもしていないのかもしれない。

 せいぜい鉱麗珠のブレスレットを作り、善人の顔をして真宵を誘導しただけだ。

 天照大神への恨みを募らせていたところに、タイミング良く武器になりそうなものを見つけて利用したのだろう。

 傍から見れば直接手を下していないし、自分が裁かれることはない。なんとでも言い逃れできる。そう踏んだのかもしれない。

 ──だが。

「自分が手を下さなければ刑罰の対象にはならねえと? くくっ、あいにく俺は真宵に手ェ出すもんには容赦しねぇ主義でな、その企みを働いた時点でアウトなんだわ」

 冴霧はよっこらと立ち上がり、無明の双眸を山峰へ向ける。

「……子ども騙しなんか効かねえんだよ」

 地を這うような冷酷な声が響くと同時、とうとう耐えられなくなったらしい山峰は「ぎゃあああああああ!」と脱兎の如く逃げ出した。

 びょーんびょーんと足裏にバネでもついているのかと疑うほどの特殊な走り方で、瞬く間に飛んでいく。

「おい、逃げたぞ」

 翡翠がのんびりとそれを見やりながら袖を払い、艶然と腕を組む。



「ハッ……たとえ地獄の果てまで逃げようが──裁きからは逃れられねぇよ」