「これはしがないよろず屋の推測だがな。──おまえは『犯人』を唆し、鉱麗珠へなけなしの神力を注ぎ込ませた。鉱麗珠には、ありとあらゆる力を溜め込む質があるゆえ、そうしておけばもう二度と高天原には上がれない『犯人』でも、神力のみ中に運び入れることが出来る。そう踏んだんだろう?」
「そうして言葉巧みに真宵へそれを手渡し、身につけさせたと」
ただ夢に入り込み真宵に声をかけるくらいなら、流獄泉流しに遭うような神でも可能だった。
しかしそこから肉体を操れるほど精神に干渉するには、己の神力を介さなければ難しかったのだろう。
霊力が強い真宵相手では、なおさら。
なんと唆されたのかはわからないが、もともと犯人の方は、山峰に話を持ちかけられる前から真宵を狙っていたと考えるのが妥当だ。
(ま、流獄泉流しの逆恨みってところか。珍しい話でもねえ)
出来過ぎたタイミングを考えると、愚かにも天利が眠った今がチャンスだとでも思ったのかもしれない。
彼女が真宵の傍にいる間は、たとえどんな神々でも容易に手は出せないから。
たとえ冴霧が未然に防げなくとも、天利は危なげなく真宵を守り抜いていた。
本人に敵わないからと娘を狙うとは、とんだ下衆である。
「あのブレスレットはテメェが用意した呪具だな。効力はつけたものの存在を認識させなくするってとこか? ま、道具屋ならそんくらい朝飯前だろうが」
鬼たちを惑わせた原因はそれだ。
小心者のくせに小賢しさだけはある。
そのひと手間をかけられたおかげで、こちらは随分と肝を冷やすことになった。
思い出すと腸が煮えくり返る。内に溜め込んできた耐え難い怒りが強く沸き上がるのを感じながら、冴霧は山峰の胸倉を掴み上げた。
「なァ。テメェは今回の事件の『黒幕』だろ、山峰」