とはいえ、この取引は『天神会』と言う名を伏せて行われている。
つまり、公にはされていない内密な裏取引だ。
横槍を入れてきたモノは、まさか自分が天神会を敵にしているとは思いもしていないだろう。
鉱麗珠は稀少にして用途が多用だ。
今回のように悪用もされる。
物が物だけに下手にばら撒くわけにはいかないため、こうして秘密裏に管理が行われているのである。
世に出回らないのは、そういうウラ事情と経緯があるからだ。
今後もこの流れが乱されては困るという単純な理由、また、なんとも背後に香るきな臭さに、天神会は重い腰を上げて調査に乗り出していた。
……結果。
「──なぁ、山峰よぉ。鉱麗珠は高かったか?」
「なっ……!?」
「テメェが取引報酬に何を出したかまでは知らんが、天神会も無能じゃねぇんでな。誰がどう鉱麗珠を手に入れているかくらい、余裕で把握してんだわ」
そう、取引を横から強奪したのは他でもない山峰である。
山峰とて商売人だ。
名を伏せて足がつかないように取引をしていた。
だが天神会はそう簡単に誤魔化せないし、はなから欺く事など不可能に近い。
「……テメェは真宵に『匿名の相手からの贈り物』と言って、あのブレスレットを渡した。その匿名ってやつが今回の『犯人』だったわけだが、まさかたまたま犯人も鉱麗珠を持っていたなんて言わねえよなぁ」
「そ、それは……」
「犯人は、数年前に流獄泉で流された神だ。あの泉は、存在するのにギリギリの神力のみを残して対象の神力を吸い取る。あの泉を通った者はもう二度と高天原には上がれない──そんな神の資格を失ったモノに、果たして鉱麗珠などという、高価なモノの取引が出来るだろうか?」
冴霧と翡翠に交互に責め立てられて、山峰は土気色の顔を震わせる。