「これはおまえの『縁』だ」
「は……?」
「縁というのは不思議なものでな。たとえ片側が無に還っていたとしても繋がれた側には記録が残るんだ。──ほら、あったぞ。『犯人』とおまえが繋がる縁が」
無数に浮かぶ中から、迷うことなく一本を抜き取って指に絡ませた翡翠。
ふっと軽く息を吹きかけて冴霧の元へと飛ばしてくる。
蝶のように漂うそれをふわりと受け取り、よくよく糸を観察するように眺めると、冴霧はにやり口端を上げた。
「……ああこれだ。この感覚。俺があの日、泉の中で無に還したやつと同じ気だ」
濁りの増した深碧の瞳で山峰を射捉えると、厳然たる態度を崩さず歩み寄る。
「っ──!!」
「山峰。おまえは真宵に、とあるモノからの贈り物を届けてくれたそうだな?」
ぶるぶると可哀想なくらいに震える山峰。
(しょせんは小心者か。実行するほどの肝を据わってなかったんだろうよ)
だが、黒幕を見逃すはずもない。
ああ哀れな、と冴霧は内心目を細めながら続ける。
「鉱麗珠なんて貴重な鉱石のブレスレット、犯人はよく手に入れられたなぁ。俺もつい先日、とある仕事で鉱麗珠を探してたんだが、不思議なほど見つからなくて苦労したんだよ。なんでも流通が滞っていたみたいでな?」
鉱麗珠は確かに珍しい。
滅多に見つからない稀少な鉱石だ。
しかし見つかったものは基本的に、とある極秘ルートを辿って天神会へ流れてくる仕組みになっている。
希少価値のあるものは、大抵、天神会で保管されているのだ。
にも関わらず──先日、唐突にその流れに横槍が入った。
ルートの途中で何者かが鉱麗珠をしこたま奪い去って行ったのだ。
金か、もしくは情報か、何にしても天神会からの報酬よりも上の報酬で取引したんだろう。