「な、なななななんのことやら」
「おーここでしらばっくれるか? いいぜ。なら説明してやろう」
冴霧は山峰の首根っこを捕まえると、そのまま外へ引きずり出した。
恐喝まがいの乱暴なやり方であるのは重々承知しているが、仕事の時はこれが通常運転だ。
変に畏まったり、威厳を張らずにいると舐められる。
それなりに態度で示さねば、犯罪者相手に取り締まりなど出来るはずもない。
家先で待機していた翡翠は、粗暴な様子が気にくわないのか、あからさまに顔を顰めている。
なにかと穏便に事を済ませようとする翡翠にとっては、あまり気持ちの良いものではないのだろう。
「どこぞの極道でそんな非道極まりない攻め方を学んできたんだ。趣味が悪い」
「あァん? 余計なお世話だ」
ボールのように放り投げられた山峰が、翡翠を見上げて顔を引き攣らせた。
「あ、あなた様は……っ」
「久しいな、山峰」
よろず屋とは業種が似ているからか、どうやら知り合いらしい。
まあ天神会の役員でこそないが、翡翠は内々でもそれなりに名の知れた大神だ。
かくりよでは知らない者はいないし、その名を聞けば大抵は『あの噂の』となる。
冴霧とは別の意味で恐れられている男だ。
「なぁ、翡翠。面倒かけるがちょっくら今回の経緯を説明してやってくれよ。どうもこいつは、身に覚えがねぇみたいなんでな」
「ほう?」
瞬間、絶対零度まで落ちた翡翠の瞳の奥が冷徹に光る。
「……ならば聞くが、山峰。先日、件の真宵嬢が何者かに命を狙われ、あろうことか流獄泉へ引きずり込まれた度し難い事件を知っているか?」
「へ、へえ……お噂には聞いておりますが」
「ならば、その犯人に心当たりは?」
「そ、そんなものオラが知るわけ……っ」
翡翠が一歩前に踏み込んだ。刹那、山峰の周囲に幾千もの黄金の糸が舞い上がる。
ぎょっとしたように山峰は肩を跳ねさせた。
まだ腰は使い物にならないらしい。
ああいや、怯えているように見えて逃げる機会を窺っているのか?