ガシャン!と音を立てて、足癖悪く扉を蹴り開ける。
いちおう鍵はかかっていたようだが、そんなものは関係ない。こういう場合は力づくに限る。
真宵が住んでいた庵の半分ほどしかない古びた小屋。
たかが蹴りくらいの衝撃でも、まるで土砂に突き破られたような轟音が響き、建物全体が今にも倒壊しそうなほど軋んだ。
「おう、邪魔すんぞー」
奥の居間から文字通り転がり出てきたのは、下膨れの顔が特徴的な小太りの男だ。
真宵よりも小柄なその男は、冴霧の顔を見た瞬間、これでもかというほど青褪めた。
大きく目を剥いて硬直し、みるみるうちに玉のような汗が吹き出す。
「さ、冴霧様……!?」
「よお、山峰。元気そうじゃねぇか」
「へえ……いや、なんでこんなところに……!?」
山の守り神、道具屋、情報屋。
数々の名を持つ山峰は困惑を滲ませて、手に持っていた呪具を転がり落とした。
商品の管理でもしていたのか、突然の来訪にそのまま飛び出してきたらしい。
足元に転がってきた呪具を屈んで拾い上げながら、冴霧は愉し気に喉を鳴らした。
「なぁに焦ってんだよ」
「す、すんません。つい驚いちまったもんで……」
「まぁそりゃそうか。今日はな、ちょいと仕事で来たんだわ」
「し、仕事……と言いますと?」
土足のまま狡猾な笑みを浮かべて、冴霧は中に上がり込んだ。
落縁で後ずさる山峰の逃げ道を塞ぐように、一瞬にして後ろに回り込む。
耳元で「山峰よォ」と嗜虐的に囁けば、山峰は声にならない叫び声をあげてひっくり返った。どうやら腰を抜かしたらしい。
口ほどにもない。
呆れながらも目の前にしゃがみこみ、わざとらしく小首を傾げてみせる。
「んなの、テメェが一番わかってんだろ?」