「俺が心を殺して背負ってきたこの罪を……これからも幾度となく重ねていかなきゃならねえこの罪を、あいつは共に背負いたいってんだぞ」

 はんと鼻を鳴らし、自嘲した。

「んなことさせられるか? おまえは心の底から愛した相手に、このどうしようもねえ絶望を背負わせられんのか? なあ、自分に置き換えて考えてみろよ」

 翡翠がぐっと押し黙る。

 この男もまた、人の子を愛した神のひとりだ。

 もし自分と同じ状況になれば、きっと変わらぬ選択をするだろう。

 冴霧にはそう確信があった。

「俺はあいつを高天原に連れてきた時こそ、まだ自分がこんな腑抜けになるなんて思っていなかったがな。……でも、この十九年で他には代えられねえくらい大切なやつになっちまったんだよ。おまえなら分かるだろ、翡翠」

「……分かるさ。嫌味なくらいな」

「天利から許嫁を言い渡された時だって、正直悩んだんだぜ。嫁になりゃいつか全てが明るみに出ちまう時が来るかもしれねえって。なあ、考えただけで恐ろしいと思わねえか。もし全てを知った真宵が、俺を拒絶したらって」

 その答えに未来はない。

 魂の契りを交わしてしまえば、二度と離れることは出来ないからだ。

 拒絶されたら最後、もはや『幸せ』など全て砂の如く崩れ去ってしまう。

「それでも……それでも俺は、何もかも隠し通そうと覚悟を決めて、許嫁の話を受けた。なぜか。んなの他の奴に渡したくなかったからに決まってるよなァ」


 ──だというのに、真宵は言うのだ。

 全てを知りたいと。
 全てを明かして欲しいと。
 共に背負わせてほしいと。

 それがどんなに真宵を傷つけることなのか、知りもしないくせに。

 それがどんなに冴霧を苦しませることなのか、分かりもしないくせに。


「……翡翠。俺には無理だ。あいつから笑顔を奪っちまうようなことは、出来ねえよ」