「早いなぁ、翡翠。あれからもう十九年も経ったんだってよ。真宵も大人になるってもんだ。ついこの間まで、あんなにちびっこかったのに」

 何千年という時を生きている神々にとっては、瞬きひとつ分ほどの儚く短い時間。

 だがそれ以前の記憶など無いに等しい冴霧にとって、神生の全容だったと言っても過言ではない。

 実質、冴霧が冴霧として『生きた』時間は、この十九年のみだ。

「……人の子の成長は驚くほど早いからな。目を離す隙もない」

「さすが同志。わかってんじゃねえか。なら俺ら神は、いつだってそれを遠くから見守ってやることしか出来ねえってことも理解してんだろ?」

 連れ帰りはしたが、最終的に決定打を下したのは天神会だ。

 真宵はその存在の稀少さを買われ、天利や冴霧を始めとした天神会上層部に属する神々によって強制的に生かされた。

 本来の運命を捻じ曲げてまで。

 真宵はそれが禁忌だと知らないかもしれないが、定められた運命に干渉するのは正真正銘この世の理に触れる禁忌だ。

 それがわかっていても、せっかく得られそうになった【清めの巫女】の存在を失うのは、高天原にとって大きな損失だったのだ。


 無論、神々には禁忌を破った責任がある。


 真宵は天神会預かりのマレビトとして最重要保護対象となったし、【清めの巫女】に関する法は瞬く間に定められ、最高神である天照大神は義親を名乗り出た。

 彼女は、本当に尽力したと思う。

 真宵をただの人の子として、ただの娘としてあそこまで育て上げた。

 巫女としての利用価値がある真宵を、全くそういう目で見ることなく、大切な我が子として守り、無償の愛を注いでいた。

 それが出来たのは、最高神たる所以か。

 ともかく、天利以外には決して成し得ないことだった。

 契りを交わさず神の加護を施し続けた反動で、いつもより二千年ほど早く眠りについてしまったのは──正直、高天原にとって大きな痛手であったが。


「……消えたら、見守るも何もないんだぞ」