──天照大神から天神会の役員に下賜され、初めて処刑の執行を課された日。
冴霧は、心を殺した。
殺さなければ出来ない仕事だと、その日のうちに悟ったから。
その頃からの記憶は曖昧だ。
細かいことはほぼ思い出せない。
もう何年前の事だったかすらはっきりと覚えていないが、十九年前に真宵と出会うまで、冴霧がそうして生きていたのだけは確かだ。
従者の鬼たち以外との関わりを断ち、天涯孤独の身で『神』を永劫全うする。
それが龍神として生まれてしまった宿命だと受け入れていたのか、ただ諦めていたのかは微妙なところだが。
どちらにせよ、この極めて理不尽で本人の気持ちなど関係なく課される仕事に反抗する気力も、当時の冴霧には残っていなかったのだと思う。
──だが十九年前、それは突如降り注いだ邂逅だった。
発端は、自分に届けられた人の子の『願い』。
冴霧はうつしよにおいて、多くの信仰を得ている神だ。
ゆえに届けられる願いも数知れず、特定の願いを叶えるというよりは、人々に相応の加護を与えるのが常だった。
そもそも神は、直接的に願いを叶えることはほぼしない。
神に与えられたお役目は、信仰する民を見守り導くことだからだ。
極稀に気分で叶えてやるものもいるが、大抵の場合は神命を用いなければならないし、それによって被る穢れは膨大でとても割に合わない。
実際、信仰分の加護を返すだけでも十分にお役目は果たしているし、自らの身を案じれば当然のことではあるのだが──。
まあ大神の冴霧とてその口で、願いにより加護の度合いこそ調整するものの、一度たりとも人の子から届けられる願いを直接叶えたことなどなかった。
──そのときまでは。