「どうしよう、私……」

「そう簡単に諦めんなや。お嬢らしくもない」

「っ……」

「そうですよ。お嬢は聡く賢い人の子でしょう。全てを知った今、今後どうするのかを判断するのはあなた次第ですが……答えなど本当はもう掴んでいるのでは?」

 赤羅と蒼爾が、真宵の頬にとめどなく流れる涙を拭いながら微笑む。

「私たちは主とお嬢の幸せを何より望んでいます。あのお方は自らが犠牲になることをいっさい厭わないおバカなので、強制的にでも止めてくれる存在が必要なのですよ。私や赤羅は右腕や左腕になることは出来ても、伴侶にはなれませんからね」

「ほんま周りはヒヤヒヤもんやで。主はん肝心なとこで根性なしやし、ここはもうお嬢が突っ込むしかあらへんやろ。つか、はよう気持ちぶつけて収まるところに収まってくれんと、もうオレ、ストレスで禿げそうでなぁ」

 虚空を見つめながらぼやいた赤羅に、思わず小さく吹き出してしまった。

「ふ、ふふっ……大丈夫、セッちゃんは禿げてもきっと素敵だよ」

 主に対して随分と不遜な物言いではあるが、不躾な言葉の節々からは強い絆が感じられた。

 無条件に互いを信頼していないと、こうも大胆な行動は出来ないだろう。

 口外禁止とされていることを、全て打ち明けてくれた鬼たちに感謝する。

 曝け出された二人の首を守るためにも、今度は真宵が動かなければならない。

(そうだ……泣いてる場合じゃない。失ってからじゃ何もかも遅いんだから)

 真宵はごしごしと袖口で濡れた目元を擦り、静かに想いを噛みしめた。


 ……やろう。

 やってやろう。

 もう振り回されるのは散々だ。


 真宵は、冴霧と同じ景色が見たい。

 冴霧と同じ世界で、笑ったり、泣いたり、怒ったりしていたい。

 それはきっと『生きたい』という思いの裏返しだ。

 今も昔も、真宵が思い描く未来には、必ず冴霧がいる。


 冴霧がいない未来など、そんなものくそくらえだから。


 真宵は意を決して、顔を上げる。



「──ふたりともお願い。私を天照御殿まで連れていって」