聞いてない。
ちっとも、少しも、一ミリも。
聞いていたら、もっと早く結婚したのに。
全て教えてくれていたら、こんな風にすれ違うこともなかったのに。
そう思った。
けれど、きっとそうではないのだとも思う。
「……やっぱり冴霧様は、たとえ結婚しても隠し続けるつもりだった?」
「おそらくは。それがあなたを守る上で、最重要条件でしょうからね」
「やけど、こうなったらもうアカンやろ。このままじゃあどっちも共倒れや。お嬢は死ぬ。主はんも堕ちて消える。そんなんどこに幸せがあるん? 最悪のバッドエンドやないか。オレらやコンちゃんのことも、もっと考えてくれっちゅう話や」
全てを知ったうえで聞いてみれば、いっそ罪悪感が湧くほど正論だった。
当然の訴えだと、真宵は頭を抱える。
もしも自分が赤羅たちと同じように置いていかれる側の立場ならば、もっと早い段階で考えを改めろと反抗していたはずだ。
しかしここまで辛抱強く耐えてきた鬼たちは、やはり相当な主思いで心優しい従者なのだろう。
「……でも、セッちゃん……もう遅いよ」
「んあ?」
「だって冴霧様はたぶんもう、私を受け入れない。全部知りたいって、教えてって言ったけど、拒絶されちゃったから。私が教えてくれないことが苦しいんだって、隠されてることが何より辛いんだって言ったから……だから冴霧様は離れたんだもん」
本当に、本当に心の底から、冴霧は真宵を愛してくれていた。
神々の世界でたったひとり生きる人の子を、己の全てを用いて守ってくれていた。
傷つけることは全て、なにもかも取り除いて。
どうか何も知らず、幸せになってほしいと。
そんな彼が、自分といることで真宵が傷つくと知って取る行動などたったひとつだ。