「ま、待って。だって、それじゃあ、冴霧の髪はもうほとんど……っ」
「だから限界なのですよ。神堕ち寸前……お嬢と同じように時間がないんです」
思わず失神しそうになった。
ふらりと脱力した真宵を、赤羅が慌てて支えてくれる。
焦燥感剥き出しで「やからな!」と焚きつけるように続けながら、真宵を覗き込んできた。
「そこでお嬢が必要なんや!」
「わ、たし……?」
「お嬢の浄化の力がこれほどまでに特別だともてはやされるのは、単に穢れを祓えるからではありません。人間界には未だある程度力ある者は存在しますしね。無論それが出来る術者は限られますし、相対的にも決して多くはありませんが……それでもこうして、神々が囲うほど貴重ではないのです」
──【清めの巫女】。
そう呼ばれ、神々に尊ばれる所以。
考えたことがなかったわけではない。
ただ、踏みこんではならないと天利に強く言い聞かされていた。
余分な知識は身を滅ぼす。
ひいては周囲に悪影響を及ぼすからと。
「あなたは穢れだけではなく、『邪』も祓うことが出来るんです。お嬢」
「っ……罪を、祓うってこと……?」
「はい。【清めの巫女】は長い神界歴の中でも片手で数えるほどしかいない。主からはそう聞いています。こう言ってはなんですが、天利様がお嬢を主の許嫁に決めたのはこのことが大きいのです。もちろん双方の想いを知っていたが故の判断でしょうが」
浄化の力を持つ真宵は、魂の契りを交わした神の穢れを無条件に清め続けることが出来る。
それは冴霧のような大きな穢れから逃れられない神に、最も必要な力だ。
穢れだけではなく、彼が真宵のために背負った罪すらも祓えるというなら尚更。
「──……そんなの、知らないよ……」