「罪を重ねた神は、大量の穢れと同時に『邪』と呼ばれる呪を被るのです。呪は神聖な神力を邪なものに変えてしまう。やがて邪に呑み込まれれば、堕ちます」
「いわゆる神堕ち──『邪神化』やな」
それは、神が本来の形を失った姿。
堕ち切った神は自我も記憶も何もかも失い、暴走の果てにやがては神力を尽かして消滅するのだ、と。
鉛を抱えたような足取りでそう言った蒼爾は、自身の目を指さした。
「神や怪──あやかしと呼ばれるモノは、邪を負うと身体になにかしらの変化が現れることが多いのですよ。神力や妖力など、そのモノの核の部分を邪に侵されているので、まあ当然と言えば当然なのですが……実はこの黒眼も初めからそうだったわけではなく、罪の顕れなんです。【黒蝕】という言葉に聞き覚えは?」
真宵は首を振る。
覚えていないだけかもしれないが、記憶にない。
「人の子には現れませんからね。あやかし界では常識ですが、天利様も不必要なことは教えないようにしていたようですし、無理もありません」
「蒼ちゃんだけやないで。上空やし今は見せられんけど、オレも背中は黒蝕に染まっとるし。ああほら、爪先なんかもな。怪は元からこういう特徴してるモンも多いし、正直わかりにくいんやけど。……でもま、主はんなんかはわかりやすいやろ」
赤羅の言葉に息が詰まった。
「……まさか、冴霧様の、あの髪は……」
見るたびに美しい白銀を脅かしていた漆黒を思い出して、全身が粟立った。
「ええ、主の髪は全て黒蝕による変化です。ちなみに神々の間では、黒蝕の影がチラついた時点で『眠り』の目安だと言われています。邪は通常の穢れとは比べ物にならないほど神力を喰い荒らすので、たとえ大神でも長くは持たないようです」
罪を重ねれば重ねるほど、邪は神力を侵し、黒蝕は増す。
罪の量を如実に表したものが、あの髪の漆黒部分だとするのなら──。