気づけば真宵の頬に一滴の涙が伝っていた。
そんなことが起きているとはつゆ知らず、真宵は数々の言葉で冴霧を傷つけてきてしまったのだ。
思い返せば思い返すほど、身勝手で愚かすぎる。
なにが癒しになりたいだ。
冴霧にとって、真宵の存在は『絶望』そのものだったのに。
「……ここで、話を戻すのですが」
流れた涙を指先で労わるように払いながら、蒼爾は言いにくそうに息を吐く。
「いくら神とはいえ、モノを『無』に還すことにはそれなりの代償が伴います。此度の冴霧様の自棄的な判断も、元を辿ればその代償が原因なのです」
「代、償……?」
「神命は多くの神力を消費するだけでなく、使うたびに穢れを負うものです。それがただ神力を使う場合と比べて、規格外なほど膨大なことはご存じですか?」
真宵は目線だけで頷いた。
「主の場合はそれが特殊で、願いを聞き届けた際に負う穢れとは別の代償を請け負ってしまうのです。というより、神としての力を行使しすぎた罪ですかね」
「罪──」
「神々の間では神罪と言われています。この世の理、触れてはならないもの、神とて歪めてはならないものに手を付けるとそう見做されるとか。そして主は自身の神命こそ神罪なのです。本来、運命を力づくで断ち切るのは御法度なんですよ」
たとえ神でもね、と物憂げに告げた蒼爾は、おもむろに眼鏡を外した。
それを懐にしまうと、じっと真宵を見つめてくる。
通常のそれとは違い、結膜の黒い蒼爾の瞳。
見つめられると、どう反応したら良いのかわからなくなってしまう。