(あの目をしていた時の冴霧様は、いつだって仕事の後で──でもなんで隠す必要があるの? 私に直接関係のあることなのに)
全て初耳だった。
この十九年、一度もそんな話は聞いたことがない。
冴霧だけでなく、義母である天利からも。
自分に関する法があることだって知らなかった。
「隠し続けて、って、いうのは……」
「……【清めの巫女】に手を出したものは、たとえどんな内容であれ重罪。極刑が科されます。それは高天原において暗黙の了解ですが、まあ多かれ少なかれいるのですよ。欲に目が眩んで、あなたを手に入れようとする不毛な輩というのはね」
「で、でも、私、実際に手を出されたのはこの間の泉くらいで」
いいや、と複雑そうに眉を寄せた赤羅が首を横に振る。
「それが『隠してきたこと』や。主は処刑だけやなくて、お嬢に関することは全て請け負っとったからな。大抵のことは事が及ぶ前に凌いどったけど、たとえ何か起こった後でも、お嬢にだけは悟らせないように手ぇ回してきたんやで」
つまり、未然にそれを防いでいてくれたと。
真宵に怖い思いをさせないように、全ての脅威から守ってきてくれたと。
(そんなの……知らない……)
なんで、どうして、と問い詰めたいのに喉が締め付けられてもう声が出なかった。
ならばこの十九年、真宵は冴霧の何を見てきたというのだろう。
冴霧は、真宵の知らないところで真宵を守るためだけに傷ついてきた。
あの絶望に染まった顔をさせてしまっていたのは、他でもない自分だった。
その事実だけが頭の中を旋回し、他の事はいっさい考えられなくなる。
「……な? お嬢、今めちゃくちゃ傷ついてるやろ?」
「っ……」
「やから主はんは話したくなかったんや。──お嬢は何も知らず、ただのびのびと幸せに暮らしてほしい。それが何よりも主はんの願いやったから」