「そ、そんなに酷いの?」
「無論、そう捉える方もいるでしょう。事実、あの方は同じ神々からも恐れられていますから。まあそれが『仕事』ゆえ、致し方ないのですけど」
赤羅と蒼爾はちらりと目配せし合って、ゆっくりと止まった。
内心『ここで?』と思うが、口には出さずに飲み下した。
ふたりの目がやけに真剣だったから。
「──主はんはな、天神会で『荒事』担当なんや」
「あ、それ前も……」
「ええ。……ここで言う荒事とは『処刑』という意味合いで用いられています」
処刑──?
聞き逃すにはさすがに物騒すぎる言葉が飛び出して、真宵は石化する。
「お嬢は、龍神様の──ひいては主の神命をご存じですか?」
「神命? え、えっと……龍神様はたしか事象の流れを司る神様で……」
考えてみれば、真宵は冴霧の神命を詳しく知らないかもしれない。
神としての存在に準じた神命であることは確かだが、はっきりとどんな力だと聞いた覚えはなかった。
その手の話を、神々が避けがちというのもあるけれど。
「そうですね。無機物でも有機物でも……かくなるうえは森羅万象例外なく、何かしらの形としてこの世に生まれ出た以上、モノは時を持ちます。事象の流れとは、言い換えればそのモノが辿る時の流れのことなのです。ですので、まあ端的にあのお方を表白するならば【生命を司る神】となるでしょうか」
「生命……」
すなわち、命の始まり。
そう理解した途端、なぜか胸がひどくざわついた。
剥がれかかった真宵の魂が、それ以上聞くなと警鐘を鳴らしているような。
この先に踏みこんでしまったら、もう二度とそこに蔓延る闇からは抜け出せない。
そんな確信にも近い予感に、真宵はたじろいだ。
しかし、今さら聞かないという選択もない。
だってこの話はおそらく、冴霧が隠し続けていた──否、真宵の知りたかったことに直接関連しているから。