神々や怪の回復力は人のそれとは比べ物にはならないが、真宵は正真正銘ただの人の子。

 彼らにとっては多少の怪我でも、真宵にとっては命に関わる。


(っていうか、白火置いてきちゃった……)


 良くも悪くも、真宵一筋。

 心配性の塊のような神使だ。

 買い物から帰って真宵がいないことに気づいたら、狂乱状態に陥ってしまうかもしれない。

 大泣きしながら屋敷中を探しまわる姿が目に浮かぶようで、真宵は途端に気がそぞろになる。

「あ、あの、セッちゃん? どこに行くつもりなの?」

「主はんとこや」

「いやなんで!?」

 さっき真宵と冴霧の確執について話したばかりではなかっただろうか。

 今さら顔を合わせづらいのは、真宵も同じ。

 どうせ別れることになるのなら、もういっそ誰も彼もから忘れ去られた状態で、ひとり隠遁(いんとん)して静かに眠りたいとすら思う。

 だというのに、わざわざ自分から会いに行くなんて──。

「お嬢はなぁ、なんやひとつ思い違いをしてるんよ」

「思い……違い?」

「主はんが自分のことを話さんのは、お嬢のことを傷つけたくないからや。でもな、たぶんそれはお嬢が考えてることよりもずうっと酷なんやで」

 酷、とは。

 真宵は戸惑いながらどういうことだ、と赤羅を見る。

 だが、答えたのは蒼爾だった。

「あのお方はこの十九年、あなたを傷つけるようなことは全て、たとえどんな方法を用いてでも取り除いてきました。それが不器用なあの方なりの愛情の示し方だったわけですが……内容は些か口にするのを躊躇うものばかりですからね」