「わ、わ、わ……っ」
内臓が持ち上がるような感覚に、真宵は目を回しそうになった。
ついこのあいだも、冴霧に刺激的な空の旅をさせられたが、なかなかどうしてこうも運転が荒い。
もっと穏やかに、恐怖を感じることなく飛ぶことは出来ないのだろうか。
「赤羅! 飛ぶ時は一言断りなさい。お嬢がびっくりしているじゃありませんか」
「んえ、堪忍なあ。でも今、大事な話の最中やったから」
蒼爾が赤羅の隣に並んで飛びながら、苦々しい顔で眼鏡をかけなおす。
どうしてこの猛スピードで飛んでいて、眼鏡が吹き飛ばされないのかが不思議だ。
「ごめんやけど、急ぐから移動しながら話すで。お嬢しっかり掴まっとき」
体を包みこむ妖力のおかげか、ある程度のところまで浮上し真っ直ぐ飛ぶようになると、体にかかっていた不快な圧力が消え去り、風すらも感じなくなる。
飛びながら会話など出来るのかと不安になったけれど、凄まじい勢いで空を駆けていても互いの声は問題なく聞こえるようだった。
「全て話すつもりですか、あなた」
「こうなったら手段は選んでられんやろ?」
「……まあ、それは否定しませんが。しかしお嬢には否が応でも厳しい話になるでしょう。もう少し気遣いながら話しなさい」
「オレ、そーいうの苦手なんやけどなぁ」
赤羅と蒼爾を交互に見ながら、真宵は落ちないように赤裸の腕にしがみつく。
巨躯の彼はがっしりとしていて安定感があるものの、それでも空を飛ぶことに慣れていない真宵には、どうしても不安が付きまとうのだ。
万が一、落とされたら終わる。