「ちょ、赤羅! なに言いくるめられてるんですか!」

「しゃあないやん、蒼ちゃん。お嬢は変なとこで頑固やから、きっとこの答えが覆ることはあらへん。なら、もうオレらが覚悟決めなあかんやろ。お嬢の死もそりゃ問題やけど、目下のところ、オレたちに直接関わってくるのは主はんのことやからな」

 そう言い捨てるや否か、赤羅は真宵を腕に抱いたまま勢いよく立ち上がった。

 唐突に横抱きされた真宵は、反転した視界に目を白黒させながら悲鳴に近い声をあげる。

「ちょっ、えっ、なに!?」

「赤羅……あなたまさか……」

 蒼爾が呆気に取られたように赤羅を見上げ、鶯色の瞳を揺らす。

「そのまさかや。お嬢には悪いけどな、オレは主はんが大事やねん。心底不器用で、色事にはどうしようもない神やけど、やっぱり失うのは嫌やねん」

「う、失うって……」

 赤羅は大股で部屋を出ながら、真宵を一瞥する。

 天を仰ぎながらも、遅れず後ろを追ってくる蒼爾は「どうなっても知りませんからね」とどこか投げやりだ。

 やがて、冴霧邸の正門を出たところで赤羅が立ち止まる。

「──【神堕ち】って知ってるか? お嬢」

「ええ、と」

 神堕ち。

 赤羅の言葉を頭の中でゆっくりと反芻して記憶の箱を探るが、こんな時に限ってパッと出てこない。

 昔、どこかで聞いた気がした。

 おそらく誰かの会話を聞いたとか、そんなレベルでだけれど。

「……【邪神化】って言えばわかるやろか?」

 
 ──邪神。

 人に災いをなす神のことだ。

 詳しくは知らないが、邪神は存在の核の部分から穢れたモノのため、神聖な高天原では存在出来ないと聞いたことがある。

「お嬢も神の穢れは知っとるやろ。人々の願いを聞き届けて力を貸す度に、神が背負う代償のことや。これはある意味義務やから、どんな神でも避けられへんのやけど」

「うん。かか様もそれが原因で眠っちゃったんだもんね」

「せやな。穢れが溜まると神力が弱まる。神力が弱まれば、人々の願いも聞き届けられなくなるし、存在もあやうくなる。神力が完全に尽きれば、神とて消滅する。せやから穢れを落とすため、神力を回復するために眠ったんやな」

 そう言い切った瞬間、赤羅は力強く地面を蹴った。

 溢れんばかりの妖力を全身にまとい、そのまま空をかち割るように上空を駆け抜ける。