「手間かけさせておいて、ふたりには本当に申し訳ないんだけど……これはいらないよ。知らない神様と結婚なんてしたくないし、最初からする気もないもん」
「せやんなぁ。ならやっぱり主はんやろ?」
「……あはは、それもないかな。冴霧様の方がもうその気ないみたいだから」
鬼たちの目が豆粒のように点になる。
真宵の言葉を理解するのに時間を要したのか、しばし沈黙した後、くわっと目を見開き「いやいやいやいや」と揃って言い募った。
「ちょっと待ってください。何がどうなってそうなったんです!?」
「せや! あの主はんに限って、そらありえへんことやで!」
とは言ってもなあ、と真宵は苦い笑みを浮かべるしかない。
事実、これだけ避けられているのだ。
真宵があれだけ迫ったにも関わらず、冴霧は変わらない。
その変わらない理由が、すなわち避ける理由でもあるのだろう。
今ここにあるのは、『冴霧が真宵から離れることを決めた』という事実のみ。
「冴霧様ったらひどいよねえ。これ、私に生きろって言ってるんでしょう?」
「そ、そら……お嬢が死ぬなんて、そんなんオレらも嫌や。たとえ気持ちがなくとも契りさえ交わせばこれから先も生きられるんやし、最悪は──」
「確かに生きられるけど、それってすごく酷なことじゃない?」
好きでもない相手と結婚して、愛されることなくただ生き長らえるだけだなんて。
向こうは真宵の力を求めて結婚するだけだ。
その代償として真宵には神の加護が施されるが、そんなものはもはや鎖に繋がれているのと同義だし、一歩間違えれば耐え難い地獄を味わうこともあるだろう。
真宵は知っている。
神々が、決して良いモノだけではないことを。
ともすれば人や怪よりも揺らぎやすく、堕ちやすいモノだということを。
「……もしかしたら、長い年月の中で生まれる恋もあるのかもしれないけどね。でもきっと私には当てはまらない。ヘタに『好き』って気持ちを知っちゃってるから、どんなに誤魔化しても比べちゃうだろうし」
恋は面倒だ。
なにもかも思い通りにはいかない。
振られてもなお引きずるこの想いに、自分がどれほど本気なのか、嫌と言うほど思い知る。