「やっぱりなあ。まあそんなことやろうとは思ってたわ」

「ええ。お嬢、主と何かあったんでしょう?」

 真宵は、のろのろとふたりを見上げる。

 鬼たちはそんな真宵に心底困った顔をして、その場に腰を下ろした。

 大柄な赤羅の太腿上に座らされ、真宵は沈痛な面持ちを隠しもせず眦を下げる。

「実はな、オレら、主はんに頼まれてお嬢のお見合い相手を探してたんやけど」

「……お見合い……結婚相手ってこと?」

「ん。せやけど、どう考えてもおかしいやろ。あんな惚気てた主はんに限って、んな気ぃ狂ったようなこと言い出すとか世界の終わりかと思うやん」

 にべもない言い方だが、蒼爾がは同意するように深く顎を引く。

「それに、ここ一週間ひどく荒れていましたからね」

「……冴霧様が荒れてるのはいつもじゃない?」

「いいえ、主はああ見えて基本的に冷静沈着な方ですよ。感情的になるのはお嬢のことだけです。まったく、ただでさえ危うい状態だというのに──」

 焦ったように腰を浮かせ、「蒼ちゃん!」と口を挟んだのは赤羅だ。

「そのへんでやめとき。余計なこと言うたら殺されんで」

「ええ。ですが、そろそろ赤羅もうんざりしてきたところでしょう?」

 そらな、と赤羅が苦い顔で肩を竦める。

 なんだか既視感のあるやり取りだ。

「ところで、コンちゃんはどうしたん?」

「白火ならお買い物に出てるよ。夕飯の材料がなくなったって」

「あー、主はんは真面目にオレらしか従者がおらんからなぁ」

 大神ともなれば、多くの神使や従者を抱えているのが普通だ。

 身の回りの世話は全て神使任せで、自分は惰眠を貪るという神も決して少なくない。

 必要最低限の従者のみを従えて、自ら生活をしている冴霧は異端なのだ。

 前にさりげなく理由を聞いた時は、仕事でほぼ家に帰ることがないからだと言っていたけれど、まあ十中八九、それだけではないだろう。