──あの日、冴霧と気まずくなってから約一週間。

 それまで夜にしか出ていかなかった冴霧は、昼間にも仕事に出るようになった。

 一応毎日、数時間程度は帰ってきているものの、真宵の元へ来ないことも多い。

 だからといって、なにか不都合があるわけではないのだけれど。

 なにせ、この冴霧邸には強力な結界がはられている。

 なんでも冴霧が許可した者しか入れない仕様で、仮に結界に異常があればすぐにわかるようになっているらしい。

 それゆえに、冴霧がいなくても奇襲の心配はない。

 真宵とて、それは理解していた。

 冴霧が屋敷にふたり残していなくなるのも、別段おかしなことではないのだろう。

 むしろ真宵のせいで仕事が出来ない日が続いていたのだから、その影響で多忙を極めているという可能性もある。

(でも……でも、寂しい)

 残り時間が少ないのだ。

 もういい。

 愛想を尽かされたのならそれで良いから、せめてそばにいてほしい。

 我儘なのはわかっているけれど、そう思ってしまう。

 何度も何度も、数え切れないくらい冴霧の求婚を断ってきたのは自分なのに、いざ死を目前にするとどうしようもなく不安だった。

 心細かった。

 わからなくなりそうだった。

 自分と子狐以外の人がいないこの屋敷では、物音ひとつしない。

 生活感も人の気配も皆無だ。

 天照御殿だってまだ音があった。

 管理のために残った神使たちがあくせく仕事をしていたし、たまに天神会関連の神々が顔を見せることもあった。

 さすがに離れではふたりきりだったけれど、ただの庵と屋敷では雲泥の差だ。

 ここは衣擦れの音すらやたらと響く。

 それが無性に、心を巣食う寂しさを引き立てる。

「ごめんね、ふたりとも。……私、冴霧様に嫌われちゃったかもしれない」

 ひとりぼっちになってしまったのか、と。

 まるで心にぽっかりと穴が空いてしまったような精神的な虚無感と、自分が自分でなくなるような物理的な虚脱感が錯綜する中で考えるのはそればかり。

 後ろ向きな考えを否定出来るほどの気力も体力も残っていないから、悪循環で。