「石を消す」

 それはなんか違う、と真宵は思わず苦笑する。

「言い換えると『嫌だ』ってことですよね」

「……そう、か?」

「そうです。その嫌な気持ちが少なからず私にもあるんですよ。あなたが傷つく要因は全て取り除きたい。あなたにそんな顔をさせるものを取り除く力がないなら、せめて私がその傷を癒したい。身勝手だけど、そう思うんです」

 しかしそれは、全て冴霧がさらけ出してくれなければ叶わないことでもある。

「一方的なのは嫌なんです。私は冴霧様が好きだから。大切だからこそ分け合いたいんです。ねえ、ここまで言ってもわかりませんか」

 冴霧はぐっと眉を寄せて俯いた。

 精緻に満ちた顔がこれ以上ないくらいに歪み、なにかに葛藤するように上から真宵の手を握りしめてくる。

 その拳は、震えていた。

 それでも急かしはせずじっと待っていると、やがてゆっくりと冴霧の顔が上がる。

 その表情に虚を突かれたのは、真宵の方だった。

(……なんで)

 吹っ切れたような表情。

 だがその瞳は、あの絶望よりもずっと深い闇に染まっている。

 完全に悪い方へ転がったと真宵が焦った時には、冴霧は弱く首を振っていた。

「……わかりたくねえな」

「冴霧様……っ」

「んなのわかっちまったら、俺ァたぶんダメになるから」

 真宵の手を掴んで、そっと下におろす。

 そのまま立ち上がった冴霧は、真宵に背を向けた。

 タイミングが良いのか悪いのか、朝食を運んできた白火の方へ歩いていく。

「わりぃ、坊主。俺はやっぱ食わねえから二人で食べろよ」

「えっ!?」

「ちょっくら寝る。なにかあったら呼んでくれ」

 そう言って、のらりくらりと冴霧は部屋を出ていってしまう。

 いつかも見たような背中なのに、なぜかどうしようもない焦燥感に襲われた。

「っ、冴霧様!」