つまるところ、仕事相手は『神』ということになる。

 しかし、神様相手にどんな仕事をしたら、こんなに邪に満ちた穢れが溜まるのか──それが分からない。

「好きだから。誰より大切だから、何も見せてくれない冴霧様が嫌いなんです」

「っ……」

「そうやって何でも自分の中に抱え込んで。どれだけ傷ついても、たとえ自分を犠牲にしてでも、私を守ってくれようとするところがどうしようもなく嫌いなんです」

 ここまで明かせば、いい加減こちらの言い分もわかってほしい。

 の、だが。

「……わけわかんねえ」

「でしょうね」

 分かっていたら、きっとこんなに拗れていなかっただろう。

 すれ違い続けて変に意固地になることも、傍から見れば自己満足でしかない結論に至ることも、ましてや『婚約者』という立場をこうも頑なに受け入れないこともなかったはずだ。

(結局のところ、私たちは似た者同士なんだよね)

 ゆえにこそ、どうしたって分かり合えないこともある。

 けれど真宵は、その壁を乗り越えたいから抵抗していたのだ。

 今この時だって、その希望を捨ててはいない。

「この間、私を助けてくれた時も思いました。大神様ならあまり問題は無いのかも知れませんけど、神力を吸い取る泉へ躊躇なく飛び込んできたでしょう」

「………………」

 今度は黙り込む作戦か。

「私ね、あの時、冴霧様のこと考えてたんです。あぁ死ぬのかなって思ったら、やっぱり嫌だって。冴霧様に会いたいって思った。──でもいざそうして助けに来てくれた冴霧様を見たら、自分が死ぬことよりもずっと苦しくなったんですよ」

 そっと身を離して、珍しく瞳を揺らがせている冴霧と正面から見つめ合う。

「ねえ、冴霧様。あなたは私に死んでほしくないって思いますか?」

「……たりめえだろ」

「じゃあ私が──例えば石につまずいて傷ついたらどう思いますか?」