膝上で両耳を抱えながら震える従者を優しく撫で宥めながら、真宵は目を伏せて口元に薄い笑みを浮かべる。その表情にはおそらくなんの感情もない。

「さあ、どうでしょうね」

「……誤魔化すなよ」

「べつに、そういうわけじゃないですよ」

 厄介だ。本当に、どうして自分は人間なのか。

 そうでなければ、こんなふうに振り回されることもなかっただろうに。

 考えたところでどうしようもないことを逡巡しながら、真宵はそっと指先で冴霧の頬に触れた。

 ひんやりと冷たく、まるで陶器の表面を触っているかのような感触。

 神とは何故、こうもみな冷たいのだろうか。

「──冴霧様。どうか私のことは気にしないでください」

「…………」

「同情なんていりません。優しさも、慈悲も、私には必要ないものです。もう充分、与えられてきましたから。はなから、その先を望んでなんていないんですよ」

 チッ、と冴霧が舌打ちする音が容赦なく耳朶を貫く。柄が悪い。

「そうかよ。だとしても俺はおまえを娶るけどな」

 すっくと立ち上がった冴霧。興を削がれたように前髪を掻き上げながら、のらりくらりと流水柄の広袖を揺らして部屋を出ていく。どうやら帰るらしい。

「白火、お送りして」

「……良いのです?」

「うん。あ、玄関にお漬物置いといたから渡してね。昨日出来たばかりのやつ」

 人の姿に変化した白火は、まだまろ眉をしょぼんと八の字に下げていた。

「大丈夫だから。ほら、早くしないと行っちゃうよ」

「……はい」

 かろうじて聞こえるだけの返事をして白火が駆けていく。その背中を見送りながら真宵は天を仰いだ。

 囲炉裏から立ち上がる湯煙が煌々と八見の反射を含んで妨げている。この離れの居間は外からの光が届きづらく、昼間でも灯りがないと薄暗い。

(ああもう、どうしてこうなるかな。可愛げもない)

 じくり、と胸の奥が嫌な痛みを持った。少しずつ毒に蝕まれて確かな輪郭を失った答えは、もう後がない真宵の選択をこうしてひどく揺らめかせる。

 ──ねえ、かか様。どうしてあの方を許嫁にしたの。

 返答のない問いを心の中で投げかけて、真宵は服の上からくしゃりと胸を握りつぶした。