だがこれは、真宵がこれまで祓ってきたものと同類にして、しかしもっとおどろおどろしく、同時に極めてタチの悪いモノだ。

 一歩間違えれば存在ごと別のものに変えてしまいかねない、危険な──何か。

 なぜそんなにも、もはや隠し切れないほどの『穢れ』を負っているのか。

 存在だけではない。

 それは、冴霧の内側、精神、果ては魂にまで濃く深く侵食し始めている。

 こうして直接触れていても、終着点が見えないくらいに。

「冴霧様。……もう、イタチごっこはやめにしませんか」

「いたち……?」

「教えてください。あなたの隠してること、全部」

 真宵は冴霧を正面から射抜きながら、自分を恨んだ。

 神がこういう状態になる理由がわからない。

 その叡知がない。

 天利はいつか否が応でも知らなければならない時がくるまではと、肝心なことを教えてくれなかった。

(……こんなことなら、無理にでも聞いておくべきだった。仮に私が冴霧様を救う術を持ち合わせていたとしても、元凶がわからなかったら何も出来ないのに)

 だがそれは一重に、真宵が人の子だからだろう。

 本来は交わることのない神様と人の子。

 必要以上に関わってしまえば、少なからず真宵側に影響が出る。

 わかっているとも。

 全ては真宵を守るためだって。

(それでも、私はもうこの世界から離れられないよ……かか様)

 たとえ高天原を出て生きれるようになったとしても、真宵はここを選ぶ。

 高天原は真宵にとって故郷だ。

 たとえ生まれがうつしよだとしても、こちらに来てすでに十九年の月日が流れている。どちらにせよ、もうあちら側に真宵の帰る場所などないだろう。

 真宵自身、帰りたいとも思えない。

 だって、ここで生きてきたから。

 天利や冴霧がいるこの世界が好きだから。