まずいと思う間もなく、全身が沸騰したように熱くなった。
体をおびただしく巡る霊力が独りでに暴走しそうになり、ぐっと息を詰めながら慌てて意識を集中させる。
(な、にこれ……っ! 熱いっ……)
「っ、真宵!」
「す、みませ……なんか、霊力が……」
これは、間違いなく防衛本能だ。
茫然と払われた自分の手を見つめる冴霧に、真宵は強い罪悪感に募られる。
咄嗟とはいえ、明らかな拒絶を向けてしまった。
「あ、の……冴霧様、ちが、ちがうんです」
決して触られるのが嫌だったわけではない。
あれだけ求婚を断っておきながら言える台詞ではないが、真宵は冴霧に触れられるのが好きだ。
頭を撫でられるのも、髪を梳かれるのも、頬をなぞられるのも。
だって、その冷たい手先とは裏腹に、とても温かいものを感じるから。
何にも代え難い慈しみが籠った、無償の愛が伝わってくるから。
だというのに、今のはなんだ。
冴霧に触れられた瞬間に流れ込んできた、どうしようもなく嫌なモノ。
その得体の知れないモノに、真宵の霊力が拒絶反応を起こした。
──あやうく【清めの巫女】の力が暴発しかけたのだ。
寸でのところで強制的に抑えこんでいなければ、祓いの術のひとつでも投げつけていたかもしれない。
「……、わりぃ。軽率なことした」
衝撃が勝って二の句が継げずにいると、冴霧は一歩離れながら絞り出すように口を開いた。
伏せられた瞼に乗った深い憂いに、真宵はびくりと肩を震わせる。
「あ、あの、今のは……っ」
「気にすんな。たいしたことじゃねえよ」
「っ……」
なにが、たいしたことがないなのだろう。
ふっと自嘲を滲ませて、淡く微笑んだ冴霧。
その瞳は、いつかと同じように光を失っていた。
そうまでしても口を割らない理由がわからない。
たとえ冴霧の口から聞かなくったって、もはや答えは明かされたようなものなのに。