思わず言葉を失う。
いつの間にあんな懐柔されたのだろう。
まさか真宵の知らないところで、かくりよの名品『かごやの饅頭』を大量に貰っていたりして。
「真宵」
悶々としていると、冴霧が真宵のそばで身を屈めた。
一瞬視界に飛び込んできた冴霧の引き締まった胸元に狼狽えて、けれども懸命に顔に出さぬよう目を逸らす。
右往左往に目線を泳がせた後、最終的に俯くことでなんとか落ち着いた。
白火の顔を揉んでいた両手を無意味に絡ませながら、こくり息を呑む。
「調子はどうだ」
「とっても元気です」
「んなわかりやすい嘘あるかよ」
おずおずと顔を上げると、冴霧がこれ以上ないくらい胡乱な目をしていた。
直視するのも躊躇うほどの美貌はたとえどんな顔でも様になるけれど、だからってそこまで呆れ切らなくても良いのにと真宵は思う。
実際、嘘ではないのだ。
流獄泉に落ちた直後に比べれば、真宵の体は幾分か回復してきている。
冴霧邸を包む豊富な神力のおかげか、はたまた気のせいかは定かではないが、こうしてまだ冴霧と会話する元気くらいならあるつもりだ。
むしろ、冴霧は自分の方がよほど顔色が悪いと気づいていないのだろうか。
「そろそろ結婚する気になったか?」
「なりません。お断りします」
「頑固なやつだなぁ」
もはや食い下がりもせず、冴霧は苦笑しながら真宵の頭に手を乗せてきた。
しかしその瞬間、思いもよらないことが起きる。
「ひっ……!?」
ぞわり、と。
冴霧の触れた部分から、全身に蜈蚣が這いずるような強烈な悪寒が走ったのだ。
ほぼ反射的に冴霧の手を振り払い、後方へ身を引く。
冴霧の虚を突かれた顔が目に入ったが、それどころではない。