(あんな憔悴しておいて誤魔化せてると思ってるのかな、冴霧様は)

 天神会の仕事なのか、統隠局の仕事なのか、それとも真宵を狙ったモノのことを調べているのか──。

 いずれにしろ、良くない仕事であることは明らかだった。

 日に日に黒く変じていく冴霧の髪。

 菊の香りに混ざり合う強い邪の気配。

 いや、むしろ、もうそちらの方が濃いかもしれない。

 冴霧の存在自体が、強く陰の方へ傾いている。

 手の届かぬ深闇に呑まれかけている、とでも言えば良いか。

「朝御飯はどうされますか? 食べれそうでしたら運んできますが……」

「うーん……あんまりお腹空いてな──」

「持ってこいよ」

 真宵の声を上から遮りながら、渦中の冴霧が部屋に顔を出した。

「あ、さぎ……」

 目を向けた途端ぎょっとした。

 露草色のラフな着流しを身に着けたその胸元が、大きくはだけていたのだ。

 鍛えられた体が惜しみなく顕わになっている。

(その無駄な、い、いろ、色気……っ! わざと!? わざとなの!?)

 目のやり場に困ってあわあわしていると、なぜか白火がしらけた視線を向けてきた。

 その目を向けるべきは真宵ではなく冴霧だろう。

 なんとなくムッとして、白火の両頬をむにむにと摘まむ。

 触感はさながら大福、毛並みは今日も変わらずもふもふだ。

「おい坊主。朝飯、俺の分もあるんだろ」

「ありますよう。当然じゃないですかあ」

 白火は真宵にされるがままになりながら、むにゃむにゃと答えた。

 どうも最近、白火の冴霧贔屓が激しいような気がするのは気のせいだろうか?

「なら三人分持ってこい。こいつには俺がじきじきに食べさせてやるから」

「はい! 持ってきます!」

 白火はするりと手を抜け出すと、獣ならではの四足歩行で脱兎のごとく部屋を飛び出していった。

 左右にゆらゆら揺れていた尻尾の嬉しそうなこと。


「…………。………………なにあれ」