冴霧邸で過ごすようになって一週間が経つ頃には、真宵は起き上がれるまでになっていた。

 体が鉛のように重怠いのは相変わらずだが、それでも随分な進歩だ。

 もうすぐ死ぬはずなのにな。

 そう思いながらも、しかし今までに感じたことの無い虚脱感は、やはり死を目前に控えていることを感じさせる。

 おそらく、魂が剥がれかけている影響によるものなのだろう。

 なんとなくぼうっとすることが増えて、同時に自分の存在があやふやになっているような感覚があった。

 とはいえ、原因はそれに限らない──のが世知辛い現実ではあるのだけれど。

「真宵さま、おはようございます!」

「あ、白火。おはよう」

「今日の調子はどうですか?」

 子狐姿で部屋に飛び込んできた白火は、遠慮なく布団の上によいせよいせと乗ってくる。

 ちょこんと良い子にお座りして真宵を見上げる様子は、さながら忠犬だ。

 可愛い、と微笑ましく頭を撫でてやりながら「大丈夫だよ」と口元を綻ばせる。

「冴霧様は? まだお仕事中?」

「さきほどお帰りになられましたよ。お部屋で着替えでもなさっているのでは?」

「そっか」

 また夜に出掛けていたらしい。

 冴霧は昼間、真宵が起きている間は基本的にそばにいる。

 しかし夜が更け、真宵たちが寝静まるのを確認すると、人知れず屋敷を出ていくのだ。

 隠すつもりはないようだが、どこに行っているのかと尋ねても「野暮用だ」の一点張り。

 どう考えても怪しいのに、隠されると余計に気になるというもので。