「ほんと、冴霧様も飽きないですね」
「飽きるも何も、俺はおまえが結婚してくれるまで続けるつもりだぞ」
「それ一生ってことですか? もしや嫌がらせです?」
実際、困るのだ。どんな顔でも絵になってしまう超越した美形に、こういう故意的なあざとさを向けられると。
どう対応したら良いのかわからないし、不覚にもときめいたりしてしまったあかつきには、もう自分が情けなくて情けなくて。
「ンなこと言ってもなぁ。天利が眠っちまった以上、おまえに選択肢なんてないだろうよ。わかってんだろ?」
「そうは思いません。流れゆくままというのも存外悪くないものですよ、きっと」
冴霧の顔から、ふっと幕を下ろしたように表情が掻き消える。
ほら出た、と真宵はぴくりとも反応を見せないまま胸の内で毒づいた。
これだからこの男は嫌なのだ。
「へえ。じゃあなに、おまえはさ」
「ところで冴霧様。申し訳ありませんが、今日は少し用事があるんです。早く食べて下さらないと、お椀ごと叩き出しますけどよろしいですか?」
「聞けよ。てか答えろ、真宵」
わざわざ遮ったのに、冴霧は一瞬にして真宵の背後へ回り込んでいた。
耳元で囁かれる妖しくも甘美な声。肩の上にコツンと顎が置かれる。無駄な肉が一切付いていない、スマートなフェイスラインが憎らしい。
首筋に触れる白銀の毛先も、一段と低くなった脅す様な口振りも。自身が持ち得る全ての武器を駆り出して人の子を弄んでくる神など、いったい誰が崇めようか。
「なあ」
こういうところが嫌なのに、と真宵は心底思う。
「──おまえ、死にてえのか」
鉛を乗せたような重苦しい沈黙がおりる。呼吸すら躊躇うような空気感が一瞬の間に空間を支配して、白火の全身の毛がぶわりと逆立った。