泉の中。

 頭の中で反芻し、ゆっくりと咀嚼して、茫然とした。

 度重なるショックで闇の彼方に葬り去られていた記憶が、じわじわと形を成して舞い戻ってくる。

(水を沢山飲んで、苦しくて……息が出来なくて……)

 あの時、だいぶ意識が朦朧としていた。

 夢か現かの判断も曖昧で、しかしだからこそ飛び込んできた冴霧の姿を見た時、当たり前なのに『神様』だと思った。

 圧倒的な神秘。

 煌めく光明を散らす粒子に包まれた姿はなんとも荘厳で、透き通るような白皙と、水面を映したような深碧の瞳に目を奪われた。

 きっと声を発せる状況であったとしても、真宵は言葉を失っていただろう。

 それくらい、美しかった。

 見惚れていたから気づかなかった……は、些か白々しい言い訳だろうか。

 呼吸が出来なくて空気を求めていた刹那、触れた唇の感触。

 あれは確かに感じていた。

 だってそうして流れ込んできた待望の空気は、全身に染み渡った豊満な神力も伴って、まるで濃厚な甘露が滴るような──。



「わーっ!!!!」


「っるせえ!!!!」

 思考があらぬ方向に流れて、思わず叫んだ。

 覆いかぶさっていた冴霧が、海老のように大きく仰け反って両耳を押さえる。

 なんだか前にもこんなことがあったような気がするが、いや、今はそんなことよりも。

(し……た! してた! キスしてた私っ!!)

 青くなったり赤くなったり、顔面を騒がしくしながら、真宵は頭まで布団を被って声にならない絶叫を上げる。

 どうか救命行為だと言ってほしい。切実に!

「わ、わわわわわ、わた、私の、ファーストキス……ッ!」