「症状的には夢遊病って言うのに似てるって、蒼ちゃんは言ってましたけど……たぶん違いますね。その夢で聞こえてた声って、今回私を泉に呼んだ声と同じなんです」

「……同じ、ねえ。じゃあつまりそん時もあやうく引き寄せられてたってことか」

「おそらくは」

 重々しく答えながら、真宵は項垂れた。

 正直あれはあまり思い出したくない。

 神々の人知を超えた所業に今さら驚く真宵ではないが、さすがに精神が参った。

 完全に意識がないまま玄関に突っ立っていた自分には正気を疑うし、疑うにしても自覚と記憶がないから対処法がない。

 だが──そうだ、ひとつだけあの時とは異なる点がある。

「でも、あの、これ言ったらものすごく怒られそうですけど……私、泉には自分の意思で行ったんです。あの時と違って、今回はちゃんと起きてました」

「はあ? 眠ったままじゃねぇってことか?」

「は、はい。とはいっても……ぼうっとはしてたかな。虚ろな感じで。そこに行かなくちゃいけないっていう妙な義務感があって──」

 操られていたわけではない、はずだ。

 確かにあの時、泉に向かっている最中は意識があった。

 決して寝ぼけていたわけでもないし、ただの興味本位で立ち入り禁止の危険地帯に踏み入れたわけでもない。

 ただ、そう、精神的に引き寄せられたとでも言うべきか。

 今思えば、罪人にしか反応しないはずの結界が流獄泉への道を開いてしまったのは、真宵がこの世界にとって〝異質な存在〟だと判断されたからだろう。

 そして天利が口うるさくあの場に近づくなと言っていたのは、その扉が開いてしまうとわかっていたからだ。

「……さすがに直前で思い留まったんです。昔かか様にすごく怒られましたし、泉に落ちたら死ぬって分かってましたから。理性なのか本能なのか、微妙なところですけど」

「ならなんで落ちたんだよ?」

「うー……落ちたというより、引きずり込まれた、が正しいと言いますか……」

 あの時、真宵は、これ以上はだめだと半ば意地で足を止めた。

 にも関わらず、落ちた。

 なぜなら、落ちまいと堪える意思を嘲笑うように泉の中へ吸い寄せられたのは──正確には真宵自身ではなく『ブレスレット』だから。