真宵はこれでも年頃の娘だ。
時を数えることを忘れるほど長く生きている冴霧からしてみれば、もはやそういう対象にすらならないのかもしれないが──。
(いやいやいや、この期に及んでなに考えてるの私は……!!)
まさか、体が動かせない瀕死の状態で連れ去られるとは。
これでは逃げ出すことも叶わない。
はてさてどうしようか、と打って変わり真剣に頭を悩ませていれば、何を思ったか、冴霧はすとんと布団の傍らに腰を下ろした。
「え、あの、冴霧様……? あっ、そういえばお仕事はどうしたんです?」
「仕事? んなもん気にすんな」
「いや、気にしますよ!? だってまだかくりよ出張期間中でしょう? あれ、そういえばなんで助けに? もしかして私、どこかにGPSでも付けられてます?」
最後には独り言並に捲し立てる。
それを奇妙なものを見るような目で聞いていた冴霧は、片膝を立てながら「元気だなおまえ」とため息をついた。
「会議ならもう終わってるし問題ねえ。出張期間は、もともと余裕を持って取ってあるだけだからな。……あとなんだ? GPS? 機械オタクの翡翠じゃあるまいし、んなもん手に入れようとすら思わねえよ」
翡翠さまって機械オタクなんだ、と絶妙に要らない情報に頭が混乱した。
面倒そうながらも、真宵の言葉をなぞるように答えてくれた冴霧。
これで満足かと言いたげに目を細めて真宵を見ながら、彼は立てた膝に物憂げな顔で肘をつく。
「おまえって本当、危機感がないよな」
「えっ」
「自分を嫁にしようとしてる男が目の前にいるのに、ちっとも警戒心を持ちやしねえとは……はあ、育て方間違ったか?」
いやいや、と真宵はかろうじて首だけ横に振る。
「そもそも育てられた覚えはないですし……。あと一ヶ月は余命があるって、冴霧様が言ったんじゃないですか。警戒心なら人並みにありますよ、たぶん」