「あと1週間ほどですが、引っ越し準備とかあって部活にあまり顔を出せそうにないので、今挨拶させてください。皆さんと一緒にバスケできたことは、私の一生の宝物です。楽しい思い出を、本当にありがとうございました」
 5月下旬の火曜日、後藤さんの転校の話が解禁となり、バスケ部でも挨拶があった。今日もすぐに帰らなきゃいけないという後藤さんを見送り終わると、女子たちがガヤガヤと話しはじめる。
「ヤバイじゃん、女バス。人数足りない」
「主力選手がいなくなるのは、キツイわー」
 みんな、私と同じことを言っている。それを受けて、藍川先生がパンッと手を打ち、再度注目をうながした。
「そう、人数が足りません。だから、次の試合までにもうひとり欲しいところ。周りに誰かバスケ部入部を検討している人いない? 3年はさすがにいないと思うけど、1年とか2年で」
 先生はそんな説明をしながら、端っこに立っている私をちらりと見る。そして、九条先輩にも目配せをした。九条先輩は壁に寄りかかって腕組みをしている。
「もしいなければ、ピンチヒッターという形で、試合の日だけでも出てもらえたら助かる。学年問わず、やってもいいっていう人がいたら……」
「先生!」
 そのとき、1年生の女子のひとりが手を上げた。みんなが一斉にそちらへ注目する。
「私の友達で、バスケ部に入りたいって言ってる子がひとりいます。とりあえず仮入部と言うかたちになると思いますけど……」
 その言葉に一瞬しんとした体育館の一角。直後に、女子4人が、
「やったー! ナイスタイミング!」
「でかした!」
「いつから来れるの? その子」
 と大盛り上がりする。
「おー、それは助かる」
 藍川先生も驚いた顔をして拍手し、その後でまた私を見た。私も驚いたものの、同じように拍手をして笑みを返す。
 正直、自分が試合だけでも出なきゃいけないことを覚悟していたものだから、拍子抜けした。新入部員が入ってくることが純粋に嬉しい、役立たずな自分が出なくて助かった、とたしかに嬉しいはずなのに、なんでだろうか、ちょっと複雑な気分だ。
 その場がひと段落して練習に入ってから、藍川先生に話しかけられ、
「なんかゴタゴタさせてごめんね」
 と謝られた。
「ていうか、どうだったの? 敦也と練習してみて」