「すーごぉーいー! めちゃくちゃ沢山!」
アンティーク着物店に足を運んだ美海(みう)は、目の前に広がる振袖の数々に目を奪われていた。
「全国各地から買い付けた、状態の良いお品ばかりですよ」
店主の女性がにこにこと説明してくれる。来年の成人式を控えて、両親が着物を買ってくれることになった。もともとアンティークに興味のあった美海は、絶対にアンティーク着物が良い! と言って、この店で着物を選ぼうと決めていたのだ。
「ふわぁー、どれも素敵な色、柄ばっかり! 少し店内を見させて頂いても良いですか?」
「ええ、ええ。存分にご覧ください」
店主の許しを得て、一着ずつ色柄を見ていく。ところどころにトルソーにディスプレイもしてあって、それらは店のお勧めらしかった。
(スタンダードな柄も、古い色だとより柄が際立つわね……。でも、花の柄も素敵だわ……。この水仙の柄は現代着物ではなかなか見ないわね……。牡丹のこの描き方も、地の色に対して鮮やかさが際立って素敵……)
味わい深い着物の世界にどっぷりと嵌っていた美海は、ふと店の奥に惹かれる色合いを見つけた。
「……?」
それは、一式の振袖だった。華やかな薔薇の花が繊細に描かれ、その周りを曲線を描く猫柳が飾っている。それに降り積もる雪が銀の色で舞い散り、地の色は紫から赤へのグラデーションで彩られている。併せてある半襟は薔薇の葉の色に似た明るい若葉色だ。帯は蔓を描いた金銀糸で織られており、その中で朱の花びらが着物の薔薇の花とマッチングしていた。
「…………素敵……」
思わず漏れた言葉に、背後に居た店主が微笑んで説明してくれた。
「このお着物一式は、明治時代の華族のお嬢さまがお持ちになってたという一式なんですよ。何でも、恋人に贈られたのに、これを着ることなく他の男性の許へお嫁に行ったとか。それでも、お着物はその後もお家で代々大切に保管されていたのですけど、ご縁があってこの店に引き取ることが出来たんですよ」
なんでもこの店も昔は呉服店で、反物などを売っていたそうだ。着物は着物を扱う店に流れつく。そう言うことなのだろう。
「……結婚できなかった相手のお着物を大事に取って置けた環境は、そのおうちの寛容さがにじみ出てて素敵ですね……。……でも、想いが叶わなかった、その女の人は可哀想……」
美海の言葉に、店主はふふ、と微笑んだ。
「想いの分だけ、大事にされてきたんですよ。それでなくても、こんなに素敵なお着物ですもの。……お包みしますか?」
「是非!」
母親に決めたと言うと、美海は決断が早いわよね、と笑われた。でも、大事なことは迷いたくない。直感程当たる予知はないと思っているのだ。