「面白いわの。毎年同じ米じゃねぇからその米に合わせて知恵を絞らんといけんだろ?親方を始め、ワシら蔵人が培った経験と知恵を融合させて造りあげてくんだ。それででき上がった酒の味がいつもの味だったら…すごくねか?」

「元が違うのにいつもの味になるんですか?」

「そこが腕の見せ所じゃ。今は昔と違うて目で見たり味わったりするだけでなくて、専用の機械で計測してデータを取る。いわゆる日本酒度、アルコール度数、アミノ酸度、酸度なんかのな」

「まさかそれが…一致するんですか?」

「微妙な違いはあっても僅かだ。自然が作り出す素材をそのまま受け入れて且つ、うちの蔵の酒の味に近づける。これが面白くなくて何だって話だわ」

すごい…。
自然に対抗しうる人間の知恵と技術。
だから…
面白いと言ったのか…。

「面白い、の意味がなんとなくわかる気がします」

「そげだろ?まぁ、お前もやっとればそんうち面白味がわかってくる。今はまだそこまで達観できんで当然だけん」

ハハハと笑って中田さんは再び斗瓶を見つめている。

自然が作り出したもの。
いつもいつも同じものはできない。
天候、気温、雨量。
様々な自然の要素が絡み合って、毎年でき上がってくる。

その年その年の米。その特徴を見て酒を造る。
いつも同じ素材でないのなら、造り方も変わって当然だ。

毎年米ができる時期になるとその米に合わせて仕込み方を考える。
そこには確かなやりがいがある。